今年度はイスラームが現代消費社会において受容、定着、拡大する過程を跡づけるためにムスリムによるハラール実践に焦点をあてて研究を進めた。具体的には、所属機関より与えられたサバティカル期間(4月から9月)を活用し、マレーシア国立図書館、マラヤ大学図書館等において文献資料の調査、、収集をおこなうとともに、クアラルンプール市ならびにその近郊地域において、比較的長期の文化人類学的フィールドワークを実施した。さらに比較の観点を導入するために、短期日ではあるがタイおよびシンガポールにおいて宗教の消費についての資料を収集した。 今年度あきらかになったのは以下の3点である。(1)消費社会においてはそれ独自のありかたでのイスラームが展開している。消費社会の拡大は、商品の生産、流通、消費(販売)のすべての工程を複雑化した。それによりイスラーム教義が定めるハラールの遵守には何らかの形での制度化が避けられないものとなっている。制度がさらに人々の実践を方向付け、その結果、商品をとりまくシステム全体のイスラーム化が進んでいる。(2)システム全体のイスラーム化とともに、イスラームを「利用する」者もまた増大している。ハラール認証制度が(非ムスリムも含めて)経済活動として利用されうるものであることから、制度化されたハラールは宗教の領域を越え出たところへと拡散している。(3)消費社会におけるイスラームの実践はローカルな文脈と深く結びついている。マレーシアの場合、イスラームはマレー系にとってのアイデンティティの中核を構成しているが、それは、たとえばハラールなレストランの選択といった日常生活のなかで構築、更新され続けている。とくにこの点はムスリムが少数派であるシンガポールやタイにおいて顕著である。 以上の考察についてはイスラームと現代消費社会という観点から研究論文としてとりまとめた。
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