4月~5月と、8月~9月の計2回、それぞれ2週間程度ラオスに滞在し、現地調査を行った。最初の調査では、これまで同様、住民たちの経済活動について聞き取りと観察を行うと同時に、ゴム園のタッピング(樹液採集)の研修について複数の住民から詳しいデータを収集した。2回目の調査では、タッピングが開始されていたため、ゴム園に行き、じかにその様子を観察するとともに、会社の幹部にインタビューを行った。この2回の調査で明らかになったのは、住民たちの生業に関する戦略が多様化していることである。ゴム園での労働需要が、タッピングがまだ本格的に始まっていない現時点では極めて不安定であり、そのためこれに頼れないという状況があり、これにより生業そのものというよりは、米や米を購入する現金を獲得するための戦略が多様化している。と同時にゴム園労働への参加の度合いや仕方も世帯により異なる傾向がある。そして、これらの戦略の多様化から浮き彫りになったのは、親族や姻族との関係における違い、また村落内の親族間の関係の変化である。この親族関係の変化については、まだそれほど目立つものではないが、土地という生産手段を失った住民たちが、これについて村落内で互いに頼れなくなっていることから、外部の親族や知り合いに頼る傾向が強まっており、それは親族だけでなく、他の資源についても外部へと目を向けつつあることがうかがえる。ごく一部の住民は、親族ではなく、自らの努力を頼りに生き残りのための戦略をたてている。以上のことから、かつて村落はこの地域で輪郭の明確な一つの空間を作っていたが、これが徐々に緩みつつあることが明らかとなった。また、これは地域住民たちの価値観や意識、あるいはディスポジションの変化を意味するものであると考えられる。
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