今年度は、阿蘇・諏訪の調査に続き、奈良の若草山、栃木の那須野、静岡県から山梨県の富士山麓の草原の調査を行った。特に、山梨県山中湖村は焼畑地帯であり、従来ほとんど調査されていない地域だったようである。標高が高く作物の栽培しにくい土地にあって、焼畑によるソバ、アワと狩猟は大きな食料資源であった。富士山を眺望できる明神山は毎年、野焼きを行う草原の山であり、カヤバである。ここでの狩猟に同行して調査をしたところ、草原で狩猟を行うが、勢子が犬を使ってイノシシ・シカを追い出すのがマチ(あるいぼタツマ)と称する獣を待ち伏せして鉄砲で撃ちとめる役は山中に配置することが多いことわかった。草原の山から延びる獣道沿いに猟師を配置しており、その場所はほとんど山中であるということである。九州と違って落葉樹林帯が主の寒冷地において、山中は下草が少なく、木と木の間隔も広く、日光も入り見通しがきく。九州の猟場に慣れた調査者にとっては東日本の山林は極めて明るいという印象を得た。シカの群れも一望でき、山中での狩猟が草原での狩猟よりも獲物を発見するのに効率的であることがよく理解できた。むしろ、阿蘇の草原での狩猟が極めて特殊で、草原のなかの獣道を発見し、山麓から山上へと動物を追い出し、それを上方から待ち受けてとる中世の登狩の狩猟法を今に伝えているのは、広域に草原が広がる特殊な地域性からくることが認められた。また、近年の鹿害に対して、全国的にジビエ料理の開発が急がれており、今後、猟師と料理関係者の交流が活発化すると考えられる。
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