今年度は、(1)難民の文化的集合的トラウマ経験に関して、実際の面談が進み、難民の苦境と生活史の多様な事例の幅を了解することができた。トラウマの治療に当たる治療者に加え、トラウマを克服した元の難民申請者たちが、治療とは異なるが難民のトラウマの克服に一定の媒介的役割を果たす様相が注目され、象徴的社会的文化表現再構成過程としての多文化相互諸過程にこうした媒介的役割を組み込んで検討すべきことが分かった。また、日本発の森田療法が効果がある点を多文化間の文化医療人類学の視点から検討事項として取り上げた(国内調査:難民事例文献の収集分析、来日したトラウマを負う難民治療関係者との面談、海外医療援助関係者との面談。海外調査:3月下旬、カナダのVancouverで、難民支援治療機関における難民申請者および治療スタッフとの面談調査、British Columbia大学で文献調査のほか、臨床心理学者たちとの面談)。(2)トラウマを扱う多文化演劇に関しては、東南アジア域内共同作業の現場確認の継続およびルアンダ虐殺劇を取り上げるSingapore演劇人の背景に着目して調査した(国内:過去に東アジア東南アジアの演劇人を集めて合同で戦争のテーマを下敷きにした多文化間合同作業としての創作劇関係者への継続面談・資料の収集。海外:前年度短期調査の継続のかたちで4月のSingaporeでの調査(5日間)kuala lumpur 1日間の調査で、戦争の記憶等に関わる間文化的共同制作を行う中国系・インド系・マレー系の演劇関係者との面談、Nanyang工科大学の社会学者、人類学者、歴史学者、およびMalaya大学演劇研究者と面談を実施)。これらの短期調査の一部の知見を用いて、移民の苦境と生活感情、医療人類学におけるトラウマとセルフヘルプグループおよび自己の分裂の問題、および、負の感情の克服というテーマに絡ませて研究発表を行った。
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