本研究は、ヨーロッパ、おもにドイツにおけるトルコ人移民労働者を対象とし、彼らの出身地であるトルコの農村とのネットワーク構築に関する考察を通して、トルコ移民たちと出身国の農村に残った者たち相互の生活戦略を文化人類学的に探究することを目的とする。本研究の特徴は、すでに文化人類学的調査を行なったトルコ共和国西黒海地方M村を基点に、ドイツへの移民労働をめぐる諸現象を動態的に検討することにある。ネットワークの担い手として、ドイツへの移民のみならずトルコのM村に残った人々にも注目することによって総体的(ホリスティック)な視点をもった文化人類学的調査となる。 初年度である21年度には、トルコ側の調査地であるM村を再訪し、M村に住む元ドイツへの移民やM村に残った親族に対する聞き取り調査を行なった。M村自体は過疎化が進んでいるが、ドイツへの移民は退職後M村に新たに家屋を建築し、村における生活を復活させている。しかし彼らは村に完全に定住したわけではなく、ドイツとの往復生活も続けていることが分かり、ドイツでの調査の必要性を再認識した。また、本研究にとって重要なドイツ語文献2冊を全文日本語訳して、研究報告書第1集・第2集としてまとめた。これらの文献は、トルコの農村誌と、その農村からドイツへの移民となった5人の人物を追った移民誌である。筆者の研究方法論に重なる貴重な資料であり、移民状況を比較した論考を次年度執筆する予定である。
|