本研究は、ヨーロッパ、おもにドイツにおけるトルコ人移民労働者を対象とし、彼らの出身地であるトルコの農村とのネットワーク構築に関する考察を通して、トルコ移民たちと出身国の農村に残った者たち相互の生活戦略を文化人類学的に探究することを目的とする。本研究の特徴は、すでに文化人類学的調査を行なったトルコ共和国西黒海地方M村を基点に、ドイツへの移民労働をめぐる諸現象を動態的に検討することにある。ネットワークの担い手として、ドイツへの移民のみならずトルコのM村に残った人々にも注目することによって総体的(ホリスティック)な視点をもった文化人類学的調査となる。 最終年度である23年度にはトルコ側の調査地であるM村を再訪した。23年度の8月30日から9月1日までがイスラームの大祭である断食祭にあたっており、ドイツに住む移民たちの多くが夏季休暇を利用してトルコのM村に戻ってきていた。また9月2日には第2年度である22年度にドイツで調査したM村出身者の弟の婚約式が行われ、参加することができた。中心的な情報提供者の親族関係、ドイツと出身村のネットワークに関して、重要な情報が得られた。今年度の業績として、第2年度に行なったドイツでの調査において明らかになった、ドイツで再現されるトルコの村の状況を描いた論文を出版した。また第2年度に招待講演において発表したトルコの女性と教育に関する日本との比較分析を収録した著書が出版された。初年度に全文和訳したドイツ語文献と、M村の移民状況を比較する論考に関しては、引き続き検討を進め、次年度において論文としてまとめる予定である。
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