本研究では、日本の船大工や木造船技術の今日について、経験をつんだ技能者や技術継承に不可欠な諸職、現物が急速に減少している現況に照らし、将来にわたりよりよい形で継承するための諸条件を考察、その具体的手だてにも取り組んだ。 まず和歌山では木造船建造の最末期である1970年代に造られた一本釣り漁船を搭載漁具とともに博物館保存できるよう橋渡し、詳細な記録調査を実施しつつ、神戸大学海事博物館での保存実現にかかわった。その結果将来確実に貴重資料となる木造船最末期の技術をあらわす有形文化財の消失をまぬがれ、付随道具・記録をふくめ現物として後世に伝える道が確保された。 また、富山県氷見では、舞鶴で使われた櫓こぎテンマ船の建造記録を昨年度にひきつづき実施した。高齢となった在地の船大工から技術指導をうけながら、他地方の現役船大工がその船を建造する試みである。新造された船は千葉へ運ばれ、末永く開成学園の古式泳法の水練船として使われる運びとなった。より確かな技術で船大工不在時代の困難をのりこえるには、広域の技術移転をすりあわせ、実現可能な方法を迅速に設定していく必要がある。本研究ではそのモデルケースとなる取組みと全記録を行った。他方、近年、河川観光舟運の隆盛とあいまって、川では木造船継承のための戦略的取組みがみられ、建造の安定・復活のきざしもある。鵜飼観覧船の造船所を市営で営み、船大工を市の無形民俗文化財に指定した岐阜市の取り組みはその好例である。建造現場では若手を育成し、積極的にその工程を観光客に見せている。本年度は、これら学校教育・観光・祭りなどを軸に、木造船終焉期の技術継承を確実にするための有効な見通しと実践的研究を可能にした。
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