本研究は、近世以降の北海道南西部の民俗をとりあげ、異民族間交流や地域間交流を経て成立した生活文化の変遷過程を明らかにするものである。 本研究の主な調査対象地域は、渡島半島の東西地域の主要な河川に祀られている神社と、それを取り巻く集落とした。調査方法は、聞き取りを主眼においたフィールドワークであるが、あわせて博物館や郷土資料館において、河川や異民族間交流に係わる物質資料についての調査を実施した。ここで調査対象に渡島半島の東西地域の神社信仰を取り上げた理由は、神社の奉納物や祭祀を示す棟札など由来や奉納年が明確なものが多く、信仰形態を時系列で示すことが可能と判断した。 分水嶺で比較する河川は、遊楽部川と見市川、野田生川と姫川、落部川と厚沢部川に加えて、近世期から交通の便が整っていた天の川と大野川についても取り上げて、東西の河川に祀られている神社祭神について比較した。また、民俗資料群のデータ収集としては、調査対象地域における民俗の伝承に大きな影響を与えた、北前船など物資の移動や菅江真澄など人的交流で培った民俗事例について調査を行った。 研究成果の公表について、北海道博物館協会道南ブロック連絡協議会の知内町郷土資料館の郷土資料館ゼミナール「知内学のすすめ」と連携して、研究会を2回にわたって開催した。初回には、秋田県立博物館の松山修学芸主事を講師に招き、菅江真澄の記録から18世紀末の北海道南西部の状況について報告を受けた。また2回目には、研究代表者が北海道南西部における河川の祭祀状況など研究成果の一端を報告した。
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