研究課題/領域番号 |
21520838
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
植田 文雄 滋賀県立琵琶湖博物館, 特別研究員 (60526317)
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研究分担者 |
辻川 智代 滋賀県立琵琶湖博物館, 特別研究員 (70443463)
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キーワード | 文化人類学 / 物質文化 / 内水面漁業 / 考古学 / 民俗学 |
研究概要 |
考古資料調査:北部九州地方の内水面定置漁業の考古関連資料について、収集にあたった.ただ、実際にはこれまで考古遺構としての検出は無いようであった(以上、植田)。民俗資料調査:琵琶湖博物館の企画展示『民具を科学する』において「琵琶湖の筌」の項目を担当し、図録の作成および分析・考察をおこなった。またこの展示に際し、現存する筌職人の制作再現をビデオ撮影し、記録保存した(琵琶湖博物館収蔵資料)。広島県江の川流域・瀬戸内海の漁具調査をおこなった(以上、辻川)。三重県鳥羽市・海の博物館、和歌山県太地町くじらの博物館の見学により、古代漁法の知識を得て、同時に現地で沿岸漁業および簡易な定置漁法を実見した(以上、植田)。 人類学調査:琵琶湖周辺のエリおよびヤナを実見し、位置の特定、簡易測量、写真撮影の補遺調査をおこなった。県内の現地調査はほぼ終了したので、近隣県での実態調査に着手した。三重県では揖斐川・木曽川・長良川下流および河口付近で、潮の満ち引きを利用し、網を立てまわした定置漁法「建干し」を現地調査、桑名漁協での聞き取りもおこなった。伊勢志摩・紀伊半島の沿岸漁業や河口付近での定置網の調査。岐阜県では揖斐川中流域の下りヤナを調査。福井県では、常神半島・神子における若狭湾の定置網業船に同乗し、漁の様子を動画撮影した(以上植田)。 関連資料調査:継続して実施している中国長江流域の漁携調査では、湖南省にある洞庭湖で実地調査をおこなった。広大な内水面で現在もおこなわれている多くのエリを実見し、琵琶湖では廃れた職住一体の漁民の生活実態を把握できた。湖北省では沼地に設置された初源的なエリも見学した。また、湖南省岳陽市では漁具専門店をたずね、淡水漁法の比較検討ができた。長江では、日本列島に影響を与えたと思われる内水面定置漁業のプロトタイプが確認でき、今後も継続調査する必要性がある(以上、植田)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査関係は予定どおり進行している。関連資料では、当初想定した以上の内容が得られている。とくに日本列島各地における内水面定置漁業の多様性が把握でき、さらに中国長江流域の人類学的調査では、多くの新資料が得られた。関連する論文発表、研究発表も成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
資料の絶対量では、考古資料・文献資料には限界がある。エリ・ヤナなど淡水漁業の歴史展開を考察するためには、アジア・モンスーン地帯の人類学調査を深める必要性が高まり、日本列島での現地調査に加え、より広域の様相を追求する必要がある。列島に対し、歴史的に影響を与えた中国・長江流域は内水面定置漁業の宝庫であり、中国の近代化が進んで淡水漁民の生活文化が途絶する前に、写真撮影などで記録保存すべきと考える。列島では経済成長の進んだこの50年間で姿を消してしまった漁携文化が、現在も彼の地域には残存しているので、今後も継続調査したい。
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