1.個別主体・個別訴訟事例検討のため、研究代表者が所属する東京大学史料編纂所架蔵の原本・写本・刊本を対象として、代表者がこれまでの研究過程で見出した、薩摩国の御家人山田道慶、および頼憲をはじめとする光信・頼勝等東寺雑掌(沙汰雑掌)について、史料収集作業を開始した。このうち、沙汰雑掌については、訴訟の場において仮名を使用しており、「東寺雑掌」等のように名前が記されない場合も多く、訴陳状の執筆や証拠文書の案文作成等を行っている可能性も高いので、作業に際しては、単なる名前の表記によるだけでなく、花押や筆跡等についても留意し、関連史料を抽出するように努めている。 2.史料編纂所未調査の関連史料について、大覚寺所蔵聖教紙背文書・陽明文庫所蔵洞院家旧蔵記録典籍類紙背文書・毘沙門堂門跡所蔵洞院家旧蔵史料を対象として、調査を実施し、必要な史料についてはデジタルカメラによる撮影も行った。いずれも学界未紹介の史料を多数含んでおり、特に重要なものについては、翻刻・検討の上、論文ないし史料紹介のかたちにまとめるよう作業を行っている。また、陽明文庫および毘沙門堂門跡所蔵の洞院家旧蔵史料は、元来一体のものであり、両者を併せて検討することによって、本来のかたちを復元し、一つの訴訟事例として理解が可能となる史料も存在する。今後、各所に散在する洞院家旧蔵史料を調査することによって、さらに多くの関連史料を見出し得ることが期待されるので、来年度以降も調査を継続したい。
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