14世紀の社会秩序構造変化において、野にありながら、高度な法知識・法技能を有し、訴訟の場で法を利用する者達が果たした役割を、実証的に解明することを目的として、以下の作業を行った。 1関連史料の網羅的収集を試み、訴訟に於いて代理を務める地頭代・雑掌に注目して作業を行った。その結果、個々の地頭代・雑掌について、所領支配ではなく、訴訟を目的とした代官であるか否かの確定には、個別事例に則した検討が不可欠であることが再認識された。 2個別主体事例検討のため、史料収集を継続するとともに、収集した史料の検討を行った。地頭代の事例として、薩摩国御家人山田道慶について検討し、自身の訴訟と並行して、他者の訴訟を請け負い、京都や鎮西探題で活動したことを明らかにした。また、雑掌の事例として、東寺の雑掌について検討し、鎌倉時代末には、もっぱら訴訟を請け負う雑掌の存在が確認できた。東寺以外にも、高野山・近衛家等の訴訟においても同様な雑掌の活動がみられた。これ等によって、地頭代や雑掌の中に、所領支配を行う者とは別に、訴訟のための代官が存在することを確認でき、その結果、雑掌をめぐる研究史上の混乱を整理する見通しを得た。 3個別訴訟事例検討のため、昨年度までの成果を踏まえ、本来一体のものでありながら分散して伝来した訴訟事例について、陽明文庫・毘沙門堂門跡所蔵史料に加え、陽明文庫での補充調査・慶應義塾大学文学部所蔵文書の調査を行い、三史料をあわせて検討し、復元作業をほぼ完了できた。鎌倉時代の訴訟・安堵に関する興味深い事例であり、近日中に翻刻および検討結果を公表する予定である。 4史料編纂所未調査の関連史料について、石川県立図書館・金沢市立玉川図書館等の調査を実施し、必要なものは、デジタルカメラによる撮影を行った。このうち、学会未紹介の史料は、翻刻・検討の上、順次論文ないし史料紹介のかたちで公表する予定である。
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