研究課題/領域番号 |
21530007
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
橋本 誠一 静岡大学, 人文学部, 教授 (90208447)
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キーワード | 代人 / 訴訟代理 / 聴訟事務 / 断獄事務 / 松江藩 / 郡奉行所 / 勧解 |
研究概要 |
本研究は、「近代地域社会における司法機構の法社会史的研究-制度・人物・事件を中心に-」という全体構想のもと、昨年度から本来のフィールドである静岡県だけでなく、中央政府の関係史料や他府県史料の調査・分析も行ってきた。そうした作業の一端をまとめたのが、拙稿「明治初年における聴訟事務-民部官・民部省を中心に-」(『静岡大学法政研究』15巻2・3・4号、2011年3月)である。それは、従来の研究では明治政府における聴訟事務担当機関に関する分析が不十分であったことを確認した上で、現時点で可能な限り史料を渉猟し、当時の聴訟制度の全体像を描こうとしたものである。 今年度は、そうした成果を踏まえてさらに視点を地方に移し、島根藩郡奉行所文書の史料調査・分析を行った。同文書群は近世後期から明治維新期にかけて貴重な裁判史料を擁するが、今回の作業はそのうちとくに明治初年(王政復古から廃藩置県まで)の史料を対象とした。その分析結果をまとめたのが、拙稿「明治初年の聴訟事務-松江藩郡奉行所文書を手がかりに-」『法制史研究』61号、2012年4月)である。 拙稿がとくに明らかにしたのは以下の諸点である。(1)維新政府の裁判権が次第に制度的に一元化されていったにもかかわらず、実際の裁判実務のあり方を見ると、大阪以西の西日本では近世以来の「大坂法」が依然として独自に(実体法的にも手続法的にも)機能していた。(2)その近世大坂法にもとづく金銭債権訴訟の手続を見ると、被告に対する召還手続は同時に内済成立に向けた処理手続(返済金の調達、分割弁済案のとりまとめ、家財処分などの強制執行手続など)を含むものであった。それは明治期に導入された勧解手続と本質的に同一のものであった。その意味で、近世法と近代法は連続的に展開していたといえる。さらに、(3)当事者に代わって訴訟場面に登場する「代人」たちの多様な活動ぶりも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
静岡県では、明治初年(元年~4年)の史料がほとんど残存していなかったため、やむなく他府県の史料によって当該時期の分析を行ったが、そこで得られた歴史認識は、今後の(明治4年以降の)静岡県における司法史研究においても当然踏まえるべき前提になるといってよい。その意味で、今年度も着実な成果が得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの作業により、明治元年から同4年までの史料調査・分析はほぼ完了した。そこで最終年度では、おもに明治4年以降の静岡県域を中心に調査を実施する。そして、これまで収集してきた歴史資料を整理することを目的として、資料年表(明治元年~10年頃)を作成し、webページで公表する予定である。その作業を通して今後の研究上の課題を明らかにし、さらに次の段階へと研究を進めていきたいと考えている。
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