本研究の最終年度である本年度においては、初年度以来取り組んできた研究の成果の一部を、2つの学会において報告した。すなわち、第一に、日本法社会学会学術大会において、「法的正義と今ここでの正義」と題する報告を行い、第二に、International Conference on Law and Societyにおいて、"Legality and Its Discontents: The Case of Local Governance in Japan"と題する報告を行った。 これらの報告はいずれも、自治体職員と住民の双方が、自治体の行政過程を規律する法的ルールをどのように認識し、それらの法的ルールに対して、どのような態度をとっているかに重点を置いて、自治体の行政過程への住民参加の現状を、具体的な事例を踏まえて分析したものである。これらの学会報告をとおして、本研究をとおして蓄積してきた知見とその理論的含意を日米双方の研究者に示すことができ、また、日米双方の研究者から有益なコメントを得ることができた。 本年度においてはまた、昨年度に実施した自治体を対象とした調査票調査の集計と分析を行った。この調査は、住民参加促進型条例を制定している200あまりの自治体を対象として、(1) 当該条例制定過程における取り組み、(2) 当該条例施行後の取り組み、および、(3) 当該条例所管課の職員は、当該条例が地域社会や自治体行政実務にどのようなインパクトをもたらしたと考えているかを尋ねたものであるが、143自治体から回答を得ることができ、その結果から、住民参加促進型条例を制定している自治体の多くは、当該条例の制定以前から、多様な住民参加の取り組みを実施していることや、それゆえに、当該条例の制定は、自治体の行政実務に大きな変化をもたらしてはいないことなど、いくつかの重要な知見を得ることができた。
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