本研究では、(1)カナダ憲法上の多文化主義の具体的規範内容、(2)カナダ憲法における多文化主義とアファーマティブ・アクションの関係(多文化主義は当然にアファーマティブ・アクションを要請するか否か)、(3)日本国憲法上の多文化主義の具体的規範内容、(4)日本国憲法における多文化主義とアファーマティブ・アクションの関係、を検討した。カナダにおける多文化主義の規範的内容として、個人に関しては、(i)個人の尊厳の尊重、(ii)平等、(iii)文化活動の保障等が、そして、個人が属する集団に関しては、(iv)集団の尊厳や差異性の承認・尊重・寛容、(v)集団の平等、(vi)集団的文化権、(vii)一定の集団的権利および自治権等があることが実証された。そして、個人の尊厳の尊重を基礎に信教の自由、表現の自由、教育の自由等を保障することによって、個々人の様々な文化活動の諸側面を保障している日本国憲法のもとでも、(ア)多文化主義は憲法上一定の重要性を伴った原理として位置づけることができる、(イ)文化的諸活動を行う集団にも一定の権利主体性が認められうる、(ウ)個人のみならず一定の集団にも平等を要請する憲法上の権利ないしは地位が認められ、一定の場合、アファーマティブ・アクションを求める権利ないし資格が付与されうる等の解釈が導かれた。少なくとも、国家により差別を受け、その結果、当該被差別集団が有する文化の維持が困難になっている場合は、当該集団またはそれに属する個人は、文化の維持のために一定のアファーマティブ・アクションを要請する資格または権利が認められうるとの解釈が導かれた。
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