1.本研究の目的は、ドイツ基本法2条1項から導き出される私的領域の保護の射程、内実、法的性格についてドイツの議論をてがかりに検討するものである。 2.昨年度執筆した人格権の射程にかんする論考が公刊された。人格権は、憲法からも民法からも導出されるが、これまで両者の区別を意識することなく、判例において用いられてきた。本稿では、憲法上の人格権は、過剰な侵害と過少な保護のみに作用し、その間の領域で民法上の人格権が作用することを明らかにした。これにより、私的領域を含む人格権の射程が明らかとなった。 3.今年度は、集団に対する侮辱的表現の許容性について、ワイマール時代からのドイツの憲法判例を中心に検討を加えた。基本法2条1項の人格権は、個人を名宛人としており、集団に対する侮辱的表現の場合、人格権侵害を構成するか否かが問題となる。初期の判例では、人格権の名宛人に忠実にこの種の表現を許容したが、その後、一定の団体に対する侮辱的表現の規制を許容する見解が登場した。その際、ドイツでは、団体それ自体の人格権を容認するというアプローチではなく、「個人の当事者性」(当該侮辱的効果が、集団・団体構成員各人に波及するかどうか)を指標に、この規制を許容する。このような思考は、個人の尊重を出発点とするわが国にとっても整合的であることを明らかにした(研究成果は『表現の自由I・II』尚学社に掲載される予定である)。この研究により、人格権の名宛人に関するドイツの判例・学説を概観することができた。
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