ここ10年ほど、日本の国会を取り巻く環境が大きく変化しており、それに伴い議員立法や基本法の増加、「ねじれ」のもとでの国会内部の合意形成手続の問題、政治主導のもとでの政策形成をめぐる問題など、従来の憲法学の理論では十分に対応できない課題が生じている。研究は、国会の最も重要な機能である立法に焦点を合わせ、共通の問題を抱えるフランスを中心とした比較憲法的・比較制度的視点からの分析によって、国会と立法が直面する諸課題に向き合うための理論的基礎を解明することを目的としている。 初年度である21年度は、基礎的な資料の収集と分析、それにもとづく試論の形成・発表などを行った。10月の日本公法学会では、「議員立法と閣法」と題する報告を行い、日本の立法過程の問題点と近時の変化について憲法学の視点から検討を加えた。「立法の質」の確保が大きな問題となっている近時のフランス憲法学の理論状況についても分析を進め、試論の構築に努めた。また、国会による行政統制のあり方や中央・地方間の規範制定権の分有の問題などについても分析を行っている(後者については、2009年12月に成城大学で開催された国際シンポジウムで報告を行った)。さらに、2010年3月には、フランス・リール大学で行われた第9回日仏公法セミナーに参加し、日本における憲法学と政治学の関係についての報告を行った。セミナーでは、フランスの憲法研究者との意見交換を通じ、政治学とは異なる視角から「政治」を主題化しようとする近時のフランス憲法学の新たな理論動向に触れることができた。本研究の方法論的基礎とも関わる視点を得ることができ、大変有益であった。
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