平成21年度は、民主主義科学者協会法律部会学術総会にて裁判員制度に関する報告を担当することになった関係で、研究計画を一部修正し、本研究の主たる対象たるP.ペティットの共和主義に関する英米での議論をフォローするとともに、英米での共和主義の一つの現れである「市民の司法参加」という問題にとりくんだ。 報告では、日本の憲法学において、裁判員制度を「共和主義」で正当化する議論があることを踏まえて、そこでいわれている「共和主義」とは、18世紀に展開する「積極的自由」を念頭においたものであり、その理解とは異なるもう一つの「共和主義」の立場に立つならば、必ずしも日本の裁判員制度を評価することはできないことを明らかにした。共和主義における自由が消極的自由であり、平等な市民で構成される国家がそれを実現するとするならば、司法過程に対する市民の参加の第一の目的は、政治過程や司法過程への「参加」を通じた市民的徳の習得ではなく、国家権力が市民の自由を恣意的に侵害し、国家が「専制」に陥らないよう市民が監視することに置かれるべきである。以上の研究を通じて、市民の自由と国家権力が相互依存的であるからこそ、両者は対立するのとしてとらえなければならないことを、市民の司法参加という具体的な局面の検討によって明かにすることができた。 イギリス憲法学における「共和主義」の展開を明らかにするという本研究の目的との関係では、「市民の司法参加」という具体的な問題の検討を通じ、「共和主義」の想定している自由と国家との関係の一端を明らかにするという成果をえることができた。この成果を踏まえて、イギリスにおける「共和主義」の受容について、さらに研究を進めていきたい。
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