研究概要 |
平成22年度は、イギリス憲法学における「政治的憲法」と「法的憲法」の具体的な検討を通じて、イギリス憲法学における「共和主義」の興隆の意義を明らかにすることを課題とした。 まず成果として挙げるべきは、イギリス憲法学において、共和主義に基づき政治的憲法を擁護する主張をしているAdam Tomkinsグラスゴー大学教授に対するインタビューを行ったことである。その結果、イギリス憲法学における「政治的憲法論」について、私なりの理解も深まった。また、1998年人権法に基づく判例が蓄積していく中で、政治的憲法論の主張者に見解の相違が表れてきたことを確認することができた。Tomkins教授は、これまでの主張を微妙に変え、法的憲法が政治的憲法を補完する可能性を認めるに至っている。それに対して、K.D.Ewingロンドン大学教授は、人権法に基づく諸判決に対して、否定的な評価を維持している。この点は、共和主義に基づく憲法解釈が、民主主義をどうとらえるのかという根本的な問題を提起しており、本研究にとって重要な示唆を得たものと考えている。 次に、英米における「共和主義」思想について、Cecile Laborde、John Maynor、Samantha Besson、Jose Luis Martiらが、P.Pettitの共和主義的自由による政治思想、法思想への影響について整理を行っており、本研究にとって重要な視点を得ることができた。特に、Samantha Besson and Jose Luis Marti(eds.),Legal Republicanism:National and International Perspectives(Oxford U.P.,2009)の諸論考は、これまで未開拓であった共和主義と法との関係を明らかにしようとするもので、憲法学における共和主義を考えていくために、非常に重要な基礎研究であると考える。 本年度は、これらを踏まえた具体的な成果を、発表していく予定である。 他方、英米の共和主義の「源流」を探る作業は、資料の収集を含めてあまり進んでいない。今年度は、研究計画最後の年であるので、Q.Skinnerの著作を手掛かりに、17世紀の「共和主義」の歴史的な研究に進んでいきたいと考えている。
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