平成21年度に、本研究の成果の一部に基づいて、日本の裁判員制度と共和主義の関係の論稿を発表したが、本年度は、憲法理論研究会春季研究総会にて、同じテーマでコメンテーターを務める機会に恵まれた。その成果を、憲法理論叢書(19)『政治変動と憲法理論』において発表した。その結論は、共和主義と司法への市民参加には親和性があるが、共和主義における市民参加の目的は、市民としての法的地位の十分な保障およびその地位の回復にあるべきだというものである。 また、本題である「イギリス憲法学における『共和主義』」について、研究成果の一部をまとめる作業をおこない、『イギリス憲法と共和主義』と題して信州大学法学論集第19号に発表した。 本論文の意義としては、まず、(1)「共和主義」には、自治を強調する「新アテネ主義」と非従属を強調する「新ローマ主義」の二つの流れがあること、(2)新アテネ主義の立場をつきつめるならば、パターナリズムと卓越主義に陥ってしまう危険性があること、(3)それにもかかわらず、両者の差異を強調しすぎるならば、「共和主義」としての思想的特徴が失われてしまうこと、を指摘して、共和主義の思想内容を明確にしたことがあげられる。 次に、イギリス憲法学における現代的なイシューである「政治的憲法論」と「法的憲法論」の対立において、「政治的憲法論」の正当化根拠の一つとして、「共和主義」が注目されていることを示したことである。論文においては、歴史的な視点から、国会を共和主義的自由を保障する機関と位置づけるA.トムキンスの見解と、裁判所の違憲審査制が共和主義的自由=非従属の自由に反することを政治哲学の観点から指摘し、通常の政党政治に基づく議会制民主主義こそが非従属の自由の保障に適していることを示したR.ベラミーの見解を詳しく検討した。
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