人権保障実施過程における「社会的なもの」の意義とその役割について、比較憲法学的方法及び臨床法学的方法を駆使して明らかにすることを目的として、本年度は、特に貧困者の市民権、居住の自由、生存権に焦点をあて、フランス及び日本の二国間の比較研究を行った。 ・日本においては、近年貧困問題が注目される上で大きな影響を及ぼした法律家及び市民の団体による法的な支援活動、生活保護問題対策全国会議、各地の弁護士・司法書士による生活保護支援ネットワークなどの法律家団体等の取り組みについて研究した。特に地元静岡の「生活保護支援ネットワーク静岡」については、直接支援活動の現場に参与する臨床法学的研究により、生活困窮者に対する排除と権利擁護活動の現実を具体的かつ詳細に明らかにすることができた。とりわけ高齢の生活保護受給男性に対する稼働能力不活用を理由とした保護停止事件については、審査請求から訴訟にいたるプロセスに直接関わり、法律家・支援者団体が、処分に対する当事者の法的対抗措置をとる上で決定的な役割を担っていることを明らかにできた。 ・フランスにおいて人権保障を支える「社会的なもの」の役割を果たしているものとして特に注目されているSamu socialのXavier EMMANUELLIのレクチャーを受け、フランス現地調査の足がかりを得た。 ・フランスのパリ第10大学を拠点とした社会権に関する国際的共同研究グループとの協力関係を構築し、各国の社会権保障の現状と課題を共有する土台を築いた。
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