本研究では、人権保障実施過程上の「社会的なもの」の役割を専ら日仏を比較して研究を実施した。特に顕著となったのは次の点である。日本においては社会的排除の対象となっている人々の権利保障とりわけ公的扶助等の社会権保障に対して保護実施機関が極めて消極的あるいは拒否的態度をとり、排除を一層強めているため、法律家・民間団体が生活保護の申請支援など権利保障手続に取り組む必要が特に必要とされていることがあげられる。 他方、仏においては、貧困者に対する公的扶助等の社会権保障制度についてみれば、在留資格のない外国人以外については、保護実施機関が拒否的姿勢をとることは少なく、また権利保障過程において、行政が法律家・民間団体に対して財政面でも支援し、両者が連携している状況にあった。また、フランスにおいて特筆されるべきこととして、住居喪失者の権利保障のため、住所に代替する本拠地登録制度を採用していることがあげられる。フランスでも日本と同様に(生活保護は除く)社会保障の給付手続や選挙人名簿への登録において住所要件が設けられている。そのため住居喪失者にとっては権利への接近さえ困難であったが、1998年反排除法によって公的機関や認可団体での本拠地登録により身分証を発行することを可能とすることで抜本的な問題解決を図った。団体への登録という点でまさに「社会的なもの」が排除された人々の権利保障の要としての機能を果たしていることが、フランスの特徴で有る。 日本では、なお「住所」喪失が諸権利享受を妨げている。年金や健康保険には住所要件があり、生活保護支給開始も「居宅」確保後という通知によって事実上給付制限がなされている。住居喪失者の選挙権侵害についていくつかの訴訟が提起されたが、係争中以外ほとんど最高裁で敗訴している。排除されたい人々を公共性の空間に取り戻すため、「社会的なもの」が担うべき役割は極めて大きいと言えよう。
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