4年間を予定された研究の初年度として、これまでの理論状況の回顧と整理を試みた。研究計画での見込みとして、私人間での人権紛争を含む人権侵害の救済は、介入的な行政機関によるのではなく、民事訴訟手続をベースとした当事者のイニシアティブにかかる簡易迅速な人権救済手続によるべきであることを挙げたが、その観点から、原理論的考察ならびに各論的考察をすすめ、そのいくつかを発表した。すなわち、「憲法と経済秩序-その解釈論的問題の所在-」(季刊企業と法創造21号)において、経済的自由と表現の自由との対比を行い、経済的自由への国家介入の強化が金融危機後に叫ばれているが、そもそも経済的自由と国家との関係付けとして、国家の創設にかかる制度として経済的自由を捉えるという「制度論」は誤りであり、表現の自由と異なり経済的自由こそは自生的にのみ展開しうるのであって、公的規制は経済システムのグローバルスタンダードへのキャッチアップのための最小限のものであるべきである、という結論を述べた。本年度の本研究で意図した私的自治の研究の一端をなしている。各論的考察としては、生活保護の給付水準の減額化という、従来は考えられてこなかった近時の新たな事態に対して、給付行政が既存の水準を後退させる場合にどのような司法審査が要請されるか、という、本研究が意図する民事裁判での簡易迅速な人権救済にとり必須の問題への関心から取り組み、年度当初の問題意識は「生活保護老齢加算の廃止と生存権」(ジュリスト1376号所収)に表明したが、その後もこのテーマを追いかけている。基本権の「確認訴訟」が簡易迅速な救済のツールとなりうるが、「『基本権訴訟』としての確認訴訟」(公法研究71号所収)は本研究の進展を反映し、平成20年度中の学会報告原稿を大幅に補強した。
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