研究概要 |
4年間の研究期間の2年目として、昨年に引き続き、行政機関による私人間への人権救済を目的とする介入制度が生起するであろう理論的問題につき、主として(1)私的自治原則とのかかわりで研究をすすめ、また(2)当該行政機関が創設された際の行動準則として想定されうる国際人権条約につき、その「国内実施」の理論的現状を分析し、あわせて、より一般的・国家論的観点から、(3)国家が国民に自由・安全・福祉を保障する対価として税制を捉えることの可能性について検討した。(1)については、職場における年齢差別を例にとり、私的自治と平等原則とのぶつかり合いと調整の観点から考察し、所属機関の大学紀要「阪大法学」で公表した(阪大法学60巻6号39頁-52頁「年齢のみによる雇用関係上の不利益取扱いと憲法一四条一項」)。(2)については、「国内裁判所における国際人権の適用をめぐって」と題する論稿にまとめ、坂元茂樹他編・講座国際人権第3巻(平成23年3月31日刊行予定)に掲載した(25頁-41頁)。(3)については、平成22年10,月の租税法学会で「『右肩下がり時代』における税のあり方-憲法的視点から」と題する報告と質疑の機会を得ることができ、また報告原稿に加筆した同名の論稿を近刊「租税法研究」(有斐閣)39号に脱稿した(85頁-96頁)。これらの主要テーマについての研究の部分的な公表と合わせ、インターネットにおける名誉毀損等、人権救済機関が創設されれば需要が多いが規範の定立が厄介であると思われる現代的な人権侵害事象について、資料収集をすすめた。また、障害者の私人間における差別を憲法上どのように位置づけるかにつき、「障害者の権利の憲法論」と題する報告を、菊池馨実早稲田大学教授主宰の社会保障法研究会(平成23年2月19日、於法政大学経済学部)で行った。
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