本研究は、多様な手法を駆使して行われる現代行政の特質に適合し、かつ、国民の包括的で実効的な権利保護を保障するような、新たな行政訴訟体系を構築することを目的とするものである。具体的には、(1)平成16年に行政事件訴訟法の抜本的な改正が行われたことから、現行法の枠内で上記目的にかなう解釈論を探求すること(解釈論的検討)、(2)より根本的に、上記目的を達成する上でいかなる行政訴訟の体系が望ましいかを、立法論的に検討すること(立法論的検討)、(3)以上の研究への示唆を得るために、諸外国における行政訴訟制度の実情を検討すること(比較法的検討)を内容とする。 平成21年度においては、解釈論的検討に重点を置き、現行法上の訴訟類型の役割分担を中心に考察を行った。具体的には、公法上の当事者訴訟(特に確認訴訟)と抗告訴訟(特に取消訴訟、義務付け訴訟、差止訴訟)の関係を検討した。この問題についてはすでに下級審裁判例が多く現れており、特に、非申請型義務付け訴訟及び差止訴訟における補充性要件が、公法上の確認訴訟における確認の利益にいかなる影響を及ぼすかが問題となっている。この点については平成22年度の早い段階で論文を公表する予定である。また、これらの検討を踏まえ、稲葉馨=人見剛=村上裕章=前田雅子・行政法(有斐閣)の改訂版を平成22年度半ばに出版予定である(担当は第4章行政争訟)。以上のほか、立法論的検討についても、これまでに提案された行政訴訟法案を概観し、大まかな検討を行った。この点は平成22年度から本格的な検討を開始する予定である。
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