本研究は、戦後日本憲法学の最大の成果ともいえるアメリカ流の違憲審査基準論が判例法理とあまりにも乖離しているという状況にかんがみて、それに代わる判例法理に内在的な憲法上の権利に関する論証作法を構築することにある。 本年度は比較的順調に研究を実施することができた。 まず、自由権に関しては、ドイツ連邦憲法裁判所が採用している三段階審査の考え方、つまり保護領域、制約、正当化という形で思考を文節化する試みの重要性を一般的に説いたのが、2008年度の日本公法学会総会報告を活字化した、「憲法訴訟の現状」という論文である。なお、同名の論文は、公法研究71号(2009年)1頁以下にも掲載されている。また、三段階審査の手法を思想・良心の自由という個別領域に即して展開したのが、「職務命令および職務命令違反に対する制裁的措置に関する司法審査の手法」という論文である。 三段階審査は自由権に関する場合に用いることができる審査方式であり、それ以外の権利については、また別の審査手法を構築する必要がある。そこで、憲法上の権利の実現が立法者による制度形成に依存する権利に関する司法審査の手法について、従来の判例・学説を整理したのが、「立法者による制度形成とその限界」という論文である。またこうした研究の成果を、『憲法事例演習教材』という共著によって、主に法科大学院生向けの授業教材のなかでも活用しようとした。 今年度における一連の研究は、学界においてかなりの注目を集めることができたと思われる。
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