研究概要 |
本研究の最終年度に該当する本年度において,研究代表者および分担者の本研究に関わる先行的準備的研究と総合した上で,<グローバル化と立憲主義の変容>をテーマとする単行書として出版し,それを研究実績とすることを当初より予定していた。実際には,中村民雄=山元一編『ヨーロッパ「憲法」の形成と各国憲法の変化』というタイトルで信山社から2012年4月に刊行される運びとなっている。本書において,山元は,日本の憲法理論を批判的に検証するという問題意識に基づいて,第9章「仏語圏および英語圏における『ヨーロッパ立憲主義』論の動向」を担当し,また中村は,EU法研究者という視角から,第1章「ヨーロッパ統合の展開とEU憲法論議の生成」および第3章「イギリス憲法」について執筆した。そこから得られたと知見として以下のものが得られた。すなわち,EUや欧州人権条約により形成されているヨーロッパ法とそれに呼応しつつも部分的には抵抗している各国法秩序の両者全体を,一元的な最終権威(ないし「承認のルール」)で階層的かつ調和的に捉える思考をするのが「憲法」「立憲主義」的な方法論であり,逆に各国法秩序とヨーロッパ法秩序の両者が上下ではなく水平の関係であり,かつ実体的に緊張関係が残り続けることを認め,最終的に両者の抵触や対立を一元的に管理統制できる究極の権威も「承認のルール」もないと考えるのが徹底した「多元主義」である。各国の憲法でなじみ深い「立憲主義」の方法論に関心が向けられがちであるがそれは現代のヨーロッパのマクロ法現象をみる目としては予断を含んだ見方に過ぎない。そのような方法論で捉えることが,事実認識の方法として,またあるべき法秩序像を示すための規範論として果たして妥当なのかどうか,それこそが問題である。このような問題意識を踏まえた上で,「国家主権」や「国民主権」を自明的な前提として議論してきた日本の立憲主義論について反省的な考察を展開する必要があるのではないか,と考えられる。
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