東北アジアにおける人権メカニズムの構築にあたっては、いくつかの前提条件をクリアーしなければならない。第一は、日中韓の相互理解と和解が前提条件となる。そのためには、日本の場合は冷戦崩壊直前まで持続していた戦後体制が植民地主義の継続に立っていたことへの省察と自覚が必要である。中国の場合は、自由権・社会権・第三世代の人権を含めた人権の普遍性の承認と、人権の実現を妨げている「党国家体制」の見直しが不可欠の課題である。韓国の場合は、国際法上いまだ「休戦状態」にすぎず、それぞれが正統政府を名乗っている朝鮮半島の分断状況をソフト・ランディングによって解消するという重荷の解消が必要である。 第二は、アセアンの成功例を参照すると、アセアン憲章のなかに人権機関を設置することを確定し、アセアン政府間人権委員会の発足にこぎつけるまでには、漸進的な過程のなかで、政府間のコンセンサスのほかトラック2やトラック3による積極的な合意調達が、大きな役割を果たしていることが確認できた。東北アジアの場合も同様にして、制度構築を展望した市民社会と政府間の対話と協力が特段に要請される。 第三は、人権メカニズムの制度化にあたっては、促進・保護されるべき人権概念の整理と明確化という課題とともに、地域人権メカニズムの権限、責務、構造を確定しなければならない。アセアン+3(日中韓)を構成国に想定した「東アジア共同体憲章案」が具体的に提言している、目的、活動目標、構成国の共有する基本原則、組織構想を参考にして、今後の明確化を図っていきたい。
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