本研究は、行政にどのような情報提供・情報収集義務が課せられるか、また、それはどのような法的根拠に基づくかを明らかにし、フランス行政判例との比較を行うことを目的としている。 平成21年度は、研究の1年目ということでもあり、第1にわが国の判例の整理分析を中心に行った。整理の対象としたのが、わが国の国家賠償請求訴訟で、行政の情報提供・情報収集義務が問題となった事例である。このような事例は、行政の規制権限の不作為の違法性が問題となった事案や戦後補償に関するものが少なくない(例えば、東京高判平成19年7月18日判時1994号36頁)。昨年度は、これらの分野だけではなく、最近の事件とりわけ耐震偽装による違法な建築確認に関する国家賠償請求事件等の、処分庁の調査義務が問題となった事件が一定数見られ、これらも分析の対象とした(例えば、建築主事の調査義務違反により国家賠償請求を認容した名古屋地判平成21年2月24日判時2042号33頁)。これらの事例では、事案によって、調査義務の根拠が異なっており、行政が行った積極的な行動が損害の原因となっている場合や、保護法益の重要性が一定の役割を果たしていることが明らかとなった。 第2に、フランス行政判例の整理分析も開始した。フランスの行政判例にも、例えば、耐震偽装事件のような違法な建築確認(許可)に対する国家賠償請求訴訟が見られ、わが国と同じように、調査義務違反が問題となっている。これらの調査義務違反の根拠は、必ずしも、個別法による具体的な授権ではなく、一般警察への授権のような概括的な規定の場合もありうることが明らかとなった。
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