本研究は、行政にどのような情報提供・情報収集義務が課せられるか、それはどのような法的根拠に基づくかを、フランス法との比較から明らかにすることを目的とする。 平成22年度も、前年度に引き続き、行政の情報提供・情報収集義務に関する国家賠償請求に関する判例の分析を行った。分析にあたっては、昨年度はあまり対象とはしていなかった、法律による調査権限が認められる場合(例えば租税法分野)も含め、制定法上調査権限が定められていない場合と比較しながら検討した。その結果、前者の場合には、法令上の調査権限が認められる結果、国家賠償請求訴訟でも過失の問題として、調査義務違反の問題が扱われることと、後者の場合については、調査義務の存在につき、判決の立場が分かれる事例がみられ、調査義務の根拠につき、行政の損害発生への関与や違法な状態を作出した点等を、重視すべきことを明らかにした。 第2に、フランス行政判例の整理分析も継続して行った。予防原則に基づき高度の調査や情報提供義務が課せられ、比較的容易に国家賠償責任が肯定されること、そして、それはフォートによる責任の場合だけではなく、フォートを不要とする責任の場合も同様であることを明らかにした。フランスにおいては、高度の調査義務が課せられる結果、リスク回避のための規制も強度のものとなる。その結果、強度の規制によって財産権等を侵害された私人を救済する必要が生じ、救済のための判例法理が生まれたと考えられる。このような傾向は、近時の判例(2009年8月31日コンセイユデタ判決)では、フォート責任の成立にも影響を与えていることを明らかにした。
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