1本年度は、「わが国における犯罪人引渡し法の現状と課題」と題する論文をまとめて、発表した。本論文は、グローバル化の進行とともに、国境を超える組織犯罪と国際テロに対抗するために犯罪人引渡制度の円滑かつ迅速な執行への要請が高まるようになるにつれて既存の犯罪人引渡し法の再検討が行われている。それにもかかわらずわが国の逃亡犯罪人引渡し法は昭和20年代に制定されたままの旧態依然たるものであるところから、どのような問題と課題があるかを考察、検討を加えることにより、抜本的な見直しが必要であることを指摘した論文である。 2他に、諸外国とくにヨーロッパ諸国間の犯罪人引渡し制度が大きく転換してきたことを実証的かつ総合的に分析する作業を進めているところである。その一環として、今年はEU逮捕状枠組決定の日本語訳を活字化した。 3本年度が本研究の最終年度であるが、研究成果の全体をまとめ上げるまでには至っていない。現在、「EU犯罪人引渡制度の新展開-欧州逮捕状における相互承認と人権原則(仮題)」を執筆中である。本稿では、EU諸国間の犯罪人引渡制度がEU逮捕状制度の採択により抜本的に変化してきたことを論ずるとともに、自国民不引渡原則及び相互承認原則と人権との関連等、運用上の問題点を明らかにしようとするものである。他の依頼原稿などの兼ね合いのために、進行が滞っているが、早急にとりまとめ本年度内には刊行の予定である。 4犯罪人引渡し制度に関する研究は、諸外国の現状と比べてわが国では遅れている。この問題に関する新たな学術研究の成果としてとりまとめたいと考えている。
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