日本は近隣アジア諸国と海域や海底について境界画定紛争をかかえている。そこで、今年度は、中国上海に出張し、中国の海洋法専門家である、上海社会科学院法学研究所の金永明教授と意見交換を行った。そこでは、大陸棚の境界画定に関する国際法が、最近の国際裁判・仲裁裁判実践によりある程度具体的な内容が確立してきていることについて一般的な合意を得た。さらに、日本の上海総領事とも面談し、中国に対する日本の海洋法上の立場について意見交換を行った。これらの面談や意見交換においては、日本が延伸大陸棚の申請において、沖の鳥島を島として扱っていることに対して中国が異議を申し立てていることについて、中国が、なぜ中国本土から離れた遠隔海域にある日本の沖の鳥島について、その島の地位についてそれほど関心を寄せるのか、いかなる利害関係があるのかなどの点についても意見聴取した。その他に、日本の調査捕鯨をめぐっては、環境保護団体であるNGOから妨害行為を受けるという事実が数年にわたって継続しているが、アイルランドのダブリンで開催された国際海洋法シンポジウムでは、この問題についての日本の立場とその評価に関する報告を依頼されて実施した。成果は、近々、出版されることになっている。さらに、国際海事機関の研究所で、海洋法に関する講義の依頼を受けた。日本も利害関心を強くもつ国であるが、地球温暖化により北極海航路が現実の可能性を帯びてきていることを素材としてとりあげて、北極海航路における船舶航行に関する国際法の規律について、講義を実施した。
|