本研究は、紛争後の平和構築過程において、国際刑事裁判と民事賠償手続との間にどのような競合関係が存在し、また協調・協力関係が実現しているのかを、実証的側面と理論的側面の双方から検討することを目的としてきた。具体的には、旧ユーゴスラビア、コソボ、イラク、スーダン・ダルフールにおける国際刑事裁判と民事賠償メカニズムを対象として、刑事訴追の対象者と民事責任の範囲、刑事裁判における証拠・証人の民事手続においる位置づけ、各々の手続において適用される国際法規範の異同などを横断的に比較分析し、これらの国家・地域において実際に両手続がどのように作用しているのかを検討してきた。 平成23年度は、前年までの研究成果を踏まえ、国内法制において国際刑事裁判と民事賠償メカニズムがどのように受け入れられているのかを中心に検討を行った.具体的には、(1)国際刑事裁判および民事賠償メカニズムへの協力要請に関する国内法制度(証拠の収集、証人の召喚など)、(2)刑事判決と民事賠償判決の国内執行手続の異同と関連性、(3)両手続の国内における刑事裁判・民事賠償訴訟に与える影響について、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、エチオビア・エリトリアなどの国内法制を比較分析した。また、ICCの信託基金の国内配分に関する原則を考察した。 こうした検討の成果は、「国際補償委員会のモデル規程」(案)として結実し、その内容はInternational Law Association)の「武力紛争犠犠者に対する賠償に関する委員会」(Committee on Reparation for Victims of Armed Conflicts)の会合(9月21日~23日にドイツ・ハイデルベルグで開催)において報告を行い、国際的な民事賠償メカニズムに関する体系的な研究として評価を受けた。
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