わが国では、2008年以後の雇用危機に対応するために「第2のセーフティネット」とよばれる政策が展開し、そして、生活を保障しつつ雇用支援事業を恒久的な「求職者支援制度」に定着させようとしている。他方で、ドイツでは2005年から実施している求職者基礎保障法(社会法典2編)の課題も明らかになってきた。ドイツでは、単に労働協約の機能の脆弱化、そして劣悪な雇用の増加に伴う雇用保険による生活保障の限界、といったわが国と共通の現象があるが、しかし労働者派遣の平等な条件の確保が大きな争点になり、連邦労働裁判所は2010年12月に均等処遇に関する重要な判断を示した。本判決は、被用者保険・雇用保険にも、派遣労働者に実効的な権利を保障するための課題をつきつけ、これまでの低賃金化に歯止めをかける契機となっている。このような動向を基に、日独を比較すれば、本年度の研究により次の点が明らかになった。1つに、基礎保障による最低生活保障は重要であるが、しかし、それは、雇用と、雇用をベースにした社会保険の機能不全を放置することではなく、権利義務化する必要があることである。2つに、それでも、派遣をはじめとする非正規雇用は有期雇用による短期間・断続的な働き方になることが多く、雇用保険・被用者保険だけではなく、基礎保障制度と共に重層的なシステムの形成が不可欠になっている。 23年度の最終まとめにむけて、非正規雇用のなかでも有期雇用・派遣を対象に、普遍的な労働をベースにした、失業や職業生活の中断時の生活保障責任の可能性を、労使・社会保険・公的扶助の中で検討したい。
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