21年度では、封建中国時代の刑事政策と死刑制度を中心に、文献の講読などの方法を通じて、まず理論的な研究を行った。その結果として封建中国の各時代においては、死刑に対する考え方は、互いに相違が若干あるものの、共に死刑を何よりもまず統治の方策・政治のスタイルとして意識して、対応していた。どの時代においても、死刑を法律の問題として刑事政策的に捉えることにはまだ至っていなかったのである。従来は、「法家」は刑罰を厳しくしようとして、死刑の多用を主張したと言われたが、「法家」より人道的でやわらかいと言われていた「儒家」も、実は、死刑に対する考え方は「法家」とはあまり変わらなかった。両方とも統治の政治から死刑を見て、皇帝の統治にとってよいか悪いかだけを死刑の基準または政策として説いていた。違うのは、強調する場面の相違だけである。封建中国法律の集大成と言われる「唐律」や「清律」もまさに「法家」と「儒家」との合体にすぎず、そこでも死刑は政治的道具でしかなかったのである。また、21年度は、上記の問題意識を持って、現在の中国の死刑運用には歴史的面影が残っていないか、中国の南方地方(華南地方)を中心に現代の死刑運用状況を調査してきた。驚いたことには、歴史的発想は今の死刑運用の中からも垣間見ることができ、歴史はまだ生きていることが分かった。従って、21年度の研究は順調に進んだものであって、これを基礎にして、民国期における死刑の状況、そして現代中国における死刑運用の状況を逐一に研究し、本研究の当初の目的と計画を完成させ実現することが十分期待できるようになったといえる。
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