まず、平成23年度には、当初の計画通りに現代中国における死刑政策・死刑制度を中心に研究を展開し、中国首都である北京と最南端である海南省に数回にわたって調査や研究発表などの形で行って、中央としての北京での動きと地方としての海南島での動きという両面からいまの現状をまず確実に、しかも多重的に把握し、従来の研究であまり注目されていなかった地方、特に少数民族のいる地方の状況をも学術的に掴むことができた。また、そのなかで、中国の公式的な資料だけでなく、死刑の運用に実際に携わっている裁判官、検察官、弁護士、行刑執行官、死刑囚に接触することができ、中国における公の死刑認識のほかに、人々が実際に死刑に対してどのような本当の思いをしているのかも研究視野に入れて検討することができ、今の中国の死刑を全面的に見ることができた。 次に、以上のように把握したいまの中国の死刑政策・死刑制度を、平成21年度に研究した封建時代の中国の死刑政策・死刑制度、そして、平成22年度に研究した民国時代の中国の死刑政策・死刑制度と照らして、中国の死刑政策・死刑制度の歴史的連続性と非連続性を明らかにすると同時に、その刑事政策性と非刑事政策性(政治性、文化性、経済性)をも究明して、本研究の最終年度としてこれまでの研究をまとめて総括することができた。特に、いまの欧米で、流行となっている、いわゆる中国の死刑多用の非歴史性・偶然性という美談に対して、それは誤った認識であって、中国の歴史上の裏と表・本音と建前・鞭と飴を混同したものであることを学術的に指摘することができた。欧米での中国死刑研究に対する強いメッセージを日本から発信することができ、影響が大きかった。本研究の当初の目的の一つである「国際的研究」も大いに達成できたといえる。 最後に、平成23年度では、上記の研究成果を日本語、英語、中国語それぞれで論文を書いてまとめて発表することができた。それと同時に、国際犯罪学会の第16回研究大会(平成23年8月)や中国の裁判官協会や中国の死刑問題民間研究会などで本研究の成果を発表することもできた。
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