本研究では、伝統的に協同組合の法的概念要素の中核に位置付けられてきた「組合員=利用者」という同一性の原則を相対化することを目指す。その手がかりとして「非利用組合員」を主たる考察対象とした。わが協同組合諸法は、非利用組合員を知らない。仮に同組合員をわが国の協同組合法理論に、より積極的に位置付けることができれば、同原則が相対化されることになる。これによって、わが法が知らない新たなタイプの協同組合の制度設計が可能になることを明らかにする。 世界的に見て非利用組合員が注目され始めたのは、2000年以降のことである。ドイツでは2006年協同組合法改正により、非利用組合員が導入された。非利用組合員は、たとえ資本調達に関する必要性があるとしても、上記の通り伝統的な協同組合法理論によると同一性の原則と相容れず、許容性は認められないことになる。ドイツでは、許容性についてどのように説明されているのか。立法理由書・学説は、同一性の原則との整合性の説明に成功しているとはいえないという結論に達した。いずれにせよ員外取引を許容する法制では、程度の差はあるが同一性の原則を緩和するという態度を既に採用している。してみれば私見によると、このような法制において、投資組合員は同一性の原則と矛盾すると今更声高に批判することこそ平仄が合わないと考えられる。 わが国とよく似た法的状況とされる韓国の状況についても副次的に考察した。同国法はわが協同組合諸法と同じく非利用組合員を知らない。これに対して員外取引についてはわが国と比べると規制が緩やかであり、同一性の原則への忠実さは、わが国よりもドイツを初めとするヨーロッパに近い。
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