本研究は、証券と預金が技術的に同じ仕組みである口座振替システムを利用していることに着目し、預金とのアナロジーで証券振替シスケムに関する基礎理論を提示することを目的とする。本年度は、誤記録の場面におけるシステムのルールとして、資金決済の誤振込につき検討した。誤振込は、振込依頼人が自己の金融機関(口座管理機関)に対し振込先を誤って指示したことから、原因関係のない受取人の口座に増額の記録がなされてしまうという状況であろが、当該増額記録の意義および記録の修正に関するルールについてはこれまでさまざまな視点から議論されてきたところである。本研究は、英米法の類似の事案において、擬制信託を適用され、優先的な資金の返還請求を認められたものと認められなかったものを比較分析することによって、返還請求権が当事者間の原因関係に起因する場合と、資金の移転そのものに起因するものとに分類でさることを明らかたした。わが国において問題となった誤振込の事案のように、被返還請求者が破綻したとすると、前者の返還請求権者と他の一般債権者の権利は、同等と評価せざるを得ない。他方、後者の場合は、優先的返還請求権を認めるべく、擬制信託が適用されてきていることを指摘した。本研究は、こうした英米法における対応を参照しつつ、金融機関の立場を考慮し、資金決済システムにおける口座記録の意義および誤記帳の場合の修正のルニルを考察した。すなわち、(1)誤記帳であることに善意で口座保有者と取引をした金融機関は保護される、(2)資金移転に関連する誤った指示に基づく口座記録の修正につき優先的な取扱いをする、というルールの必要性を唱えた。
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