全部取条項付種株式についての文献を見逃さずに読み込むように努めた。利用の方法が固まってたからか、この制度そのものを議論する文献は減少傾向にあり、むしろこれを利用した場合の価格決定申立制度の運用(裁判所における価格決定申立事件)に関する論文等が多く公表された。裁判例とともに、これらの文献の収集を行った。 予備的な実態調査は、公認会計士試験に合格した学部卒業生に協力を得て、ほぼ網羅的に、制度制定から平成21年11月頃までに上場会社で利用された事例を収集し検討した。現時点での分析によれば、約100件の利用例のうち、従来の100%減資の代替手段として用いられたのは、1件のみであり、それも旧グッドウィル社に関する特殊な事例であり、本来予定された利用は皆無に近い状況である。 他方で、濫用的な利用も目立っており、典型的にはMBOであるが、この点についても、裁判所の裁判が多く示されるようになったので、注目してさた。 以上の序章的な研究成果は、租税法学会において報告の機会が与えられたので、そこでの報告の一部として紹介した。種類株式一般が租税法ないし税法の理論および実務では重要になっているが、会社法の研究者として、種類株式の活用方法などを紹介しつつ、これに関する課税関係などについて問題を提起した。 前記の予備的な実態調査を終えた後に、年度末の短期間になってしまったが、カナダを訪問し、会社法制、倒産法制、証券法制などに知見の深い研究者からヒアリングを行うとともに、議論を行った。株主を排除する仕組みは会社法制と証券法制に備わっているが、対象となる会社がinsolvencyの状態にある場合には、倒産法制の問題として割り切って処理されている。本研究が課題とする事象について、倒産法制の具体的な運用、種類株式で対応することの是非など、さらなる研究の必要性が残った。
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