平成21年度に続いて、ファイナンスの分野に知力を有する学生の協力を得ながら、全部取得条項付種類株式の利用状況に関して、事案の調査を行った。具体的には、新規の事案を追加して取りまとめるとともに、過去の事例についての情報の確認作業を行った。 平成22年度の調査においても、全部取得条項付種類株式制度を、いわゆる100パーセント減資のために利用した事例は、少なくとも上場企業では殆ど存在しておらず、MBOなどに利用された事例が大半であった。買取価格の決定という形で、裁判でも多くの事例が争われ公表されているが、価格の決定の方法などについては実務でも定まっておらず、それ故にこそ、非訟事件として扱われていると考えることができよう。 他方で、濫用的なスクイーズ・アウト(少数株主の締め出し)が可能となってしまっており、価格決定申立請求権のみでは十分な救済になっていないことが課題とされるようになった。法制審議会会社法制部会でも、この点について問題提起がなされ、今後の方向性としては、全部取得条項付種類株式を含むスクイーズ・アウトを可能とする手法について横断的な規制をなすべきか、あるいは、スクイーズ・アウトのための特別な手続を新設し、それ以外の方法によるスクイーズ・アウトを制約することを目指すべきかが、検討されるようになっている。 そこで、比較法的な考察として、当初予定していたように、企業の倒産時または倒産に近い危機時において種類株式という技術を用いることの是非のみならず、スクーイズ・アウトに規制に関して、従来から横断的な規制を課してきたカナダ法から示唆を得るために、カナダを訪問し、現地の研究者と議論を行った。
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