全部取得条項付種類株式の利用状況に関して、ファイナンスの分野に知力を有する学生の協力を得ながら、事案の調査を行って、利用状況を分析した。 調査の対象とした利用例をみると、全部取得条項付種類株式制度は、会社法制定時における制度導入の本来の目的では、上場会社では用いられていない。すなわち、法的な倒産または再生手続によらずに、いわゆる100パーセント減資のために利用した事例は、少なくとも上場企業では存在しておらず、MBOなどに利用された事例が大半であった。買取価格の決定という形で、裁判でも多くの事例が争われ公表されているが、価格の決定の方法などについては実務でも定まっていないという状況が続いている。 平成24年8月の会社法制部会において、「会社法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられ、同年9月の法制審議会総会において、同要綱案が採択され、「会社法制の見直しに関する要綱」として法務大臣に答申された。この要綱においては、全部取得条項付種類株式や組織再編行為の差止めに関する規定を新設することが提言されており、また、キャッシュ・アウトを直接的に可能とする制度の新設が提言されている。 これらの同部会の議論のみならず、各界の意見についても広く集めて、今後の立法の方向性について考察を行い、論文や学会報告において分析や意見を表明した。
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