本研究は、人身傷害補償保険契約の法的性質とこれに適用されるべき規範を明らかにし、加えて、同保険契約に基づく請求権代位の在り方に関する解釈論争に説得的な指針を提供することを目的とする。 本研究は、その第一段階として、主要損害保険会社の人身傷害補償保険契約の約款を収集するとともに、各社の運用実務、とりわけ、被保険者に生じた人身損害の損害額の査定および加害者ないしその責任保険会社に対する代位求償権の行使(請求権代位の実施)の状況を、各社の実務担当者からのヒアリング等により調査することを企図していたが、平成21年度に引き続いて平成22年度も調査を行った結果、人身傷害補償保険契約の実務運用の変遷について、かなりの情報収集をすることができた。 この作業で得た知見に基づき、自動車保険制度の在り方についての考察を順次進め、その研究の成果の一部を、京都大学法科大学院実務交流講演会(平成22年9月29日、大阪弁護士会館。講演題目は「自動車保険制度について」)において発表した。 また、これらの作業と並行して、平成22年4月1日からの「保険法」の施行により損害保険にかかわる法律実務がどのような影響を受けることになるかについての基礎的研究も行った。著書『保険法解説』、論文「譲渡担保と被保険利益」は、それらの研究成果の一部である。このほか、平成22年度日本私法学会シンポジウムにおいて、代理商・仲立人に関する考察の中で、保険取引の将来の姿についても論じた。
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