平成21年度は、交付申請書に記載した研究を、(1)企業結合関係にある会社間の利害調整のための法制度を少数株主保護の面から明らかにする、(2)企業結合関係にある会社間の利益相反的行動の局面における取締役の行為規制を明らかにする、という二つの面について、研究計画に沿って実施した。 (1)について、ヨーロッパ諸国における企業結合法制に関する文献を収集し、検討を開始したところ、わが国でヨーロッパにおける企業結合法制のモテルと位置づける先行研究が多いドイツのコンツェルン規制が、EU法においては必ずしも模範となるべき法制度とは考えられておらず、近時は、フランスの判例法理を参考にして、グループ構成会社の少数株主・債権者の保護を図りつつ取締役のグループ利益追求行為を法的に承認する立法措置を加盟国は施すべきであるとの提案がなされているという、新たな知見を得た。従属会社少数株主の保護に関して、フランス法は、ドイツ法よりも、支配従属会社間取引についての支配会社から従属会社への補償等について柔軟な扱いがされていることが注目される。 (2)については、単体会社の取締役の行為規制との違いに着目した検討を行った。交付申請書の「研究実施計画」に記載したように、本研究の基礎となる取締役の行為規制に関する学術論文を、平成21年度の前半に公表したが、そこでは、単体の会社の取締役の義務および責任論が、企業結合関係にある会社間取引の側面では必ずしも妥当な結果を導かない点を明らかにし、企業結合関係に独自の行為規制論を展開する必要性に関する示唆を行った。 このほか、平成21年度に会社法の概説書を改訂し、その作業において、取締役の義務ないし責任に関する近時の学説判例の動きについてフォローアップを行った。
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