平成17年制定の会社法は、全株式譲渡制限会社と公開会社とで、相当に異なった規律を採用しており、その違いの多くは、全株式譲渡制限会社について、公開会社には認められない定款自治を認めるという点に存する。そこで本研究は、大きくは全株式譲渡制限会社と公開会社とに区分をして検討を進めた。平成21年度および22年度は全株式譲渡制限会社の機関関係および株式関係の問題について、平成23年度および24年度は公開会社の機関関係および株式関係の問題について、それぞれ考察を行ったのに続き、本年度は、会社法制全体について、定款自治に不必要な制約が課せられていないか、逆に定款自治を広く認めすぎていないか等の問題を考察した。この考察においては、特に平成24年9月に法制審議会において次期会社法改正のための要綱がとりまとめられ、平成25年11月に法案が国会に提出されたことを受け、同改正において設けられる予定の新たな規律が、適切な範囲の定款自治を実現するものとなっているかという問題が重要である。たとえば、同改正により、機関関係に関する定款自治が拡大され、会社は、定款により、監査等委員会設置会社という新たな機関形態を選択することが可能となる見込みである。この機関形態は、業務執行担当者の意思決定権限が大きすぎないか等、定款自治の範囲を広く認めすぎているのではないかという問題、または既存の機関形態との均衡を欠いているのでないかという問題のあることが明らかとなった。もっとも、機関形態について定款自治の適切な範囲を判断するに当たっては、実務界にとって使いやすいかどうかという要素等も考慮せざるを得ず、その判断は容易でない。
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