2009年度は、国際倒産における弁済調整制度(ホッチポット・ルール)発祥の地であるイングランドにおける、このルールの展開に関する資料収集と分析を中心に行ってきた。また、EU倒産規則でのこのルールに対するアプローチに関する資料収集を開始した。このヨーロッパ規則に関しては、ドイツ語資料についてだけでも膨大であり、2010年度以降も継続して行う必要がある。さらに、国際倒産法について世界的権威であるドイツ・レーゲンスブルク大学のゴットヴァルト教授へ、本ルールの適用をめぐる問題について、評価や質問を行ってきた。 2009年度の成果としては、後掲の「国際倒産における担保権」を公表した。同論文は、今後の成果の序論となるべきテーマであり、内容的には相当の広がりを有する。つまり、担保権を有する債権者は国際倒産の場面でも優先的地位を保つことができるのか、担保権者の地位は担保権の準拠法と倒産手続開始地国法のいずれによって判断されるのか、担保権と類似の機能を有する相殺権はどうなのか、否認権との関係はどうなのか、弁済調整ルールは担保権者との関係でも適用されるのか、といった問題について問題提起を行うと共に序論的検討を行い、国際取引における信用を優先させ、基本的に担保権の準拠法によるべきことを説いた。これらの問題は、債権者の配当に回すべき債務者の資産の範囲に直結する問題であり、相互に密接に関係するものである。今後、この視点を基に前記諸問題の検討を行う。
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