(1)研究代表者岩志和一郎は、論文「子の権利保護のための諸力の連携-ドイツ親権法の展開-」を発表した。同論文は、前年度までに得られた子の利益保護のための連携システムに関する知見に、2009年9月から施行されたドイツの新家事事件手続法の研究を加えたものである。また研究協力者高橋由紀子は、「ドイツの交流権行使と支援制度」を発表した。同論文は、親と子の交流の支援のシステムを研究したものであり、とりわけ新家事事件手続法によって導入された交流保護という制度について初めて紹介する論文である。岩志論文、高橋論文ともに、民法親権規定と児童福祉、さらに司法権の連携という、ドイツ親権法発展の特徴と新たな法律状態を紹介、確認し、我が国の児童保護法制に参考として供したものである。 (2)研究代表者岩志ならびに研究協力者高橋および鈴木は、2009年3月20日より26日までドイツ・ベルリン市を訪問し、児童保護法制の研究者であるベルリン工科大学ミュンダー教授とのセミナー、少年局や家庭裁判所関係者からの聞き取り調査、民間児童保護団体の調査を実施した。このベルリン調査は、主として児童虐待に対する対応など、子の福祉に対する危険に対する対応を知るためになされたものである。また、研究代表者岩志は、上記ベルリン訪問に引き続き2009年3月26日より30日まで、ドイツ・ミュンヘン市を訪問した。同地では、親権法の代表的研究者であるミュンヘン大学のケースター教授との会談、ミュンヘン市少年局の職員との懇談を実施した。 ベルリン、ミュンヘンで得た知見からは、児童保護のための対応の迅速化、簡易化を目指す方向と、国家による過剰な介入の回避という要請を調和させるための努力と、新家事事件手続法施行後の実務の、司法と児童福祉の一層の連携強化を進める姿勢をうかがい知ることができた。
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