本研究の目的は、ドイツ法を材料として、実体親権法の内容を実現するための司法、行政さらには民間の福祉団体の連携のあり方を探ることにあった.本研究では、その焦点を、児童虐待を典型とする、子の福祉に危険が及ぶ場合における連携に当てた。 ドイツでは、子の福祉に危険が及ぶ場合に対する法的対応は、子の福祉の危険についての手掛かりを得て、児童福祉当局(少年局)が危険の評価をし、あるいは緊急の場合には子を一時保護する第1フェーズ、その評価に基づいて援助計画を策定し、福祉的援助(少年援肋)の給付を行う第2フェーズ、家庭裁判所の手続を喚起し、審理、決定を得る第3フェーズ、家庭裁判所の決定に従って親の配慮Elterliche Sorgeの剥奪等の介入的処置が実施され、後見・保護が開始する第4フェーズの4段階に分かれる。このうち、第3フェーズは親の配慮への介入であり、司法作用の段階であるが、他は原則行政作用である。 本研究では、ドイツ・ベルリンでの少年局・裁判所・民間団体の調査およびミュンダー教授をわが国に招聘してのセミナーなどを通じ、各機関の密接な連携整備の実態を知ることができた(その詳細については、成果報告書参照)。ドイツは、わが国以上に司法と行政の峻別には厳しい目を持つが、この分野では、司法判断の際に強制的な協議の場を設けて親に社会的な援助の受給を説得し、また処分の一つとして受給を命ずるというシステムを採っている。その背後にあるのは、少年局と家庭裁判所はそれぞれに異なる役割を有してはいるが、その分担は相互遮断的なものではなく、子の保護の責任共同体として、家庭裁判所の権威と少年局の児童保護の任務を接合させ、その潜在能力を発揮させることが相当であるという考え方である。子の権利保護という観点から親権システムを考える場合に、これらの連携は不可欠の要素である。
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