健全な水循環系を構築するためには、過度に地下水に依存しない水供給の仕組みを創出する必要があるが、ここでは、いかに地表水を適正に再配分するかという問題が主要な論点となる。水資源の再配分制度に関する基礎理論の考察として、水利権の内容を明らかにすることが肝要である。そこで、当該年度では、水量侵害と水質汚濁に対する法的救済の判例を分析することによって、慣行水利権の類型とその効力および差止請求の法的構成について論究した。 水量侵害の判例分析からは、慣行水利権相互間の優劣関係を表す専用権、共用権、余水利用権の3類型は、共用権を基軸に構成され、水利権の競合する利水者が、自己の水利権の優越性を立証できなければ、当該権利は共用権と解されることに言及した。そして、慣行水利権の原型である共用権の理念は、水利権の核心部分に据えられる水資源の公共性に支えられていると論じた。 水質汚濁の判例分析では、水資源をめぐる差止請求の法的構成を考察するにあたっては、不可欠性、循環性、公共性といった水資源の性質が、その保護を必然的に要請する点に着目し、水道利用者のように水源に対する水利用権限をもたなくても、その水源に対する侵害行為によって深刻かつ不可逆な損害が発生するおそれがある場合には、水資源の性質から導かれるその要保護性を根拠として、侵害行為を差止めることができることに論及した。そして、安全な水の確保という絶対的要請は、飲用水や生活用水の利用権限の保護とともに、水源の保護の必要性を導出し、それらを結合させたものが水資源の要保護性として捕捉されることを究明した。
|