本研究2年目となる今年度は、水環境の保全の見地から、アメリカ水法における水質汚濁に対する法的救済の理論およびわが国における環境のための水利用について考察した。 第1に、アメリカ合衆国において何らかの形で沿岸主義を採用する法域では、汚染行為に対する差止めの理論構成には、コモン・ロー上、沿岸権侵害とプライベート・ニューサンスの2類型があり、両者の関係について、沿岸権の侵害行為が土地の利用と享受を不合理に侵害するニューサンスと解される場合があることを明らかにした。そして、両者が重畳するケースは、家庭用または家畜用の水供給に影響を与える水質汚濁の場合のような、一定の事実類型の事案において生じることについて論証し、このようなアメリカ水法の考え方の特徴は、ニューサンスによって救済されないケースでも水利権(沿岸権)の侵害として救済されうるところにあると論及した。かかる立場は、わが国の裁判例が水利権という財産権の侵害を前面に出して差止請求を認めることに消極的であるのと比べ、対照的な見解であるといえよう。 第2に、環境のための水利用、いわゆる環境用水については、利水目的の達成に向けた引水のプロセスも包摂した形で水利権の内容を構成しており、水循環の一過程を水利権の客体に取り込むものと解されるため、水循環の概念に適合する思考である。環境用水の性質について、灌漑を主たる目的とした多目的用水である地域用水のそれと照合するならば、水を消費しない点、特定の受益者が観念できない点、水利用に伴う収益が発生しない点等において、大きな隔たりがあると指摘し、環境のための水利用を論じる際には、両概念を区別し、議論する必要があると考察した。
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