本研究の最終年度となる今年度は、健全な水循環系構築のための水資源の保全と利用に関する基礎理論について、いままでの研究を整序してその成果をまとめた。当研究の主要な成果は、一般公衆の自由な使用が認められる河川の流水がもつ水資源の公的側面と、土地所有者が地下水を利用できるという水資源の私的側面の関係について考察し、水資源の公共性と水利用権限の私権性を接合させる理論を提示したところにある。すなわち、水資源の中核には公共性があるが、水利用権限に基づく私的支配の領域に水が到達したときには、その公共性に水利用権限の私権性が覆い被さることにより排他的に利用できるようになるという解釈である。このような水資源の「公」と「私」の接合理論は、水資源の性質の観点から水循環を法的に表現するものであり、水循環を前提とした水資源の保全と利用に関する法制度を支える基礎理論として位置づけられるとともに、健全な水循環系の構築と合理的水利用の調和を図る施策の基盤に必要な法理論であると考えられる。 さらに、限りある水資源をいかに再配分するかという観点から、水資源の再配分の法理論として水利権(専用権)の譲渡に関する理論を発展させてきたアメリカ水法の見地についても考察した。すなわち、水資源の有限性を確知するアメリカ西部の諸州は、新しく水を確保する手段として、既存の水利権を新たな水利用のために譲渡することを条件付きで認めているが、その主要な条件である権利侵害禁止のルールについて考究した。当該ルールは、一般的に全ての専用権者を権利侵害から保護する準則であるといわれているが、後順位専用権者はその専用の時点で存在した水流の状態を維持する既得権を有し、その既得権を保護するために同ルールが確立したという経緯を考慮するならば、本来、当ルールは後順位専用権者の権利を保護する準則であると解すべきであるとした。
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