四年の研究期間の二年目である本年度の業績として、とりわけ、本研究内容の三つの軸(情報の自由の価値をめぐる原理論的考察、よりプラクティカルで個別具体的な調整課題の検討、体系化のための理論枠組みに関する研究)の全般にわたる、以下の二つの研究成果が挙げられる。 第一に、研究発表欄に記載した単著書『情報法の構造-情報の自由・規制・保護』では、情報の自由・規制・保護のあり方が問われる基本的場面に着目し、そこでの課題の解決において考慮されるべき基底的な価値原理、そして、拮抗する諸価値間の微妙な調整を図るための概念と論理技術について、考察を加えた。その結論部分では、情報法のさらなる成熟に向けての示唆として、(1)社会において情報が自由に流れることの原理的な価値・意義の確認を、情報に関する法的諸課題に取り組む際の共通の出発点とすべきこと、(2)サイバー法概念に見られる価値や規制の再検証機能を、情報法の観念においても効果的に活用すべきこと、(3)既存の法領域を横断する形で対抗利益間の調整と均衡を図る方法について探る場合には、個別領域での解決のための思考枠組みや論法が一定の価値前提に拘束されている可能性にも留意すべきこと、を指摘した。この拙著の公刊を通じて、本研究のコンセプトと枠組みについて関連領域の研究者や実務者から高い評価を得ることができた。 第二に、上記の拙著での考察の概要をまとめた英語論文を執筆して、国際憲法学会で四年ごとに開催される世界大会のワークショップに投稿し、英語で発表を行う機会を与えられた(研究発表欄を参照。なお、同論文は、同学会のウェブページ上で公開されている-http://www.juridicas.unam.mx/wccl/ponencias/3/66.pdf)。この機会を活用して、欧米のみならず、多くの国々や地域から集った研究者等に会い、効率的に調査・討議・レビューを実施した。
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